【PR】本記事は情報提供を目的としており、一部に広告(アフィリエイトリンク)を含みます。税制・法令の数値や期日は本記事執筆時点(2026年6月)のもので、適用にあたっては国税庁等の公式情報や顧問税理士へのご確認をおすすめします。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)の「経過措置」が、いよいよ次の段階に入ります。免税事業者からの仕入れについて認められてきた仕入税額控除の割合が、2026年10月から引き下げられ、あわせて小規模事業者向けの「2割特例」も2026年9月で終了します。本記事は、中堅企業の経営者・CFOが押さえるべき「本当のスケジュール」と自社の負担増、そして取引先対応の法的な注意点を、国税庁・公正取引委員会の一次情報にもとづいて整理します。
結論を先にお伝えすると、ネット上で広く語られている「2026年10月に控除が80%から50%へ、負担は一気に2.5倍」という説明は、令和8年度(2026年度)税制改正で変更されており、いまは正確ではありません。ここを正しく把握しているかどうかが、過剰反応や誤った価格交渉を避ける分かれ目になります。
誤解を正す:仕入税額控除の経過措置は「8割・7割・5割・3割」へ段階的に縮小
免税事業者など(適格請求書発行事業者以外)からの課税仕入れについては、本来は仕入税額控除ができません。ただし激変緩和のため、一定割合を控除できる経過措置が設けられています。令和8年度税制改正により、この割合と期間は次のように再設計されました(国税庁「お問合せの多いご質問」問113・令和8年4月改訂による)。
| 期間 | 控除できる割合 | ポイント |
|---|---|---|
| 2023年10月〜2026年9月 | 80% | 現行。ここまでは負担は限定的 |
| 2026年10月〜2028年9月 | 70% | 改正で新設(当初は50%予定だった部分) |
| 2028年10月〜2030年9月 | 50% | 本格的に負担が効いてくる段階 |
| 2030年10月〜2031年9月 | 30% | 廃止前の最終段階 |
| 2031年10月〜 | 控除不可(0%) | 経過措置の終了 |
あわせて、この経過措置には新たな上限が設けられました。同一の免税事業者等からの課税仕入れの合計額(税込)が、その年または事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合、その超えた部分には経過措置を適用できません。この見直しは2026年10月1日以後に開始する課税期間からの適用です。大口の免税仕入先がある企業は、取引先別の年間取引額の把握が新たに必要になります。
自社の負担はどれだけ増えるのか(金額イメージ)
控除できない部分は、そのまま自社が納める消費税の増加、つまり自社のコストになります。一般的な計算として、免税事業者から税込11万円(うち消費税相当額1万円)の外注を受けた場合の自社負担は次のとおりです。
| 時期 | 控除割合 | 自社の負担(消費税1万円のうち) |
|---|---|---|
| 現行(〜2026/9) | 80% | 2,000円 |
| 2026年10月〜 | 70% | 3,000円(約1.5倍) |
| 2028年10月〜 | 50% | 5,000円(現行比2.5倍) |
ここがポイント:2026年10月の引き下げは「80%から70%」であり、負担はいきなり2.5倍ではなく約1.5倍にとどまります。本格的にコストが効いてくるのは2028年10月の50%以降です。短期で過剰に身構えるより、2028年・2030年を見据えて中期の取引条件・予算に織り込むのが現実的です。
取引先対応で見落とせない法的注意点(下請法・独占禁止法)
控除が減る分を取引先(免税事業者)との関係でどう扱うかは、コストとコンプライアンスの綱引きになります。公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」を踏まえると、次の整理になります。
- 登録の要請そのものは問題なし:適格請求書発行事業者への登録を「お願い」すること自体は独占禁止法上問題ありません。ただし「登録しなければ取引を打ち切る・一方的に値下げする」と通告するのは優越的地位の濫用にあたるおそれがあります。
- 協議なしの価格据え置き・一方的減額はNG:仕入先が課税転換したのに協議せず対価を据え置く、あるいは免税であることを理由に消費税相当額を一方的に差し引くのは、買いたたきや下請法の「下請代金の減額」(下請法第4条第1項第3号)に該当しうる行為です。
- 双方納得の価格設定はOK:控除制限分を踏まえ、双方が協議のうえ合意して価格を決めるなら、結果的に下がっても問題にはなりません。公取委は、立場上言い出しにくい仕入先に対し発注側から価格交渉を申し出ることを推奨しています。
実務の勘所:「黙って自社で被る」か「黙って相手に転嫁する」かの二択にしないこと。後者は法令違反リスクが高いです。発注側から協議を申し出て、双方合意で価格を決めるプロセスを社内ルール化するのが、コストとコンプラの両立解になります。
データで見る実態:多くの企業が「黙って被っている」
日本商工会議所・東京商工会議所が2025年6〜7月に実施した実態調査(回答2,710事業者)によると、本則課税の事業者のうち43.7%が制度導入後も免税事業者からの仕入れを継続しており、コスト増を感じる企業は45.8%、事務負担増は73.4%にのぼります。一方で、課税転換を機に価格交渉を「行わなかった」企業が76.8%を占め、その主な理由は「発注側から交渉提案がなかった」ことでした。多くの企業が、交渉も区分経理の整備も進めないまま、負担を静かに抱え込んでいる構図がうかがえます。
同時に効いてくる「電子帳簿保存法」と電子インボイス
インボイスと並走して、経理の電子化対応も避けて通れません。改正電子帳簿保存法では、メール添付のPDF請求書やECサイトからダウンロードする取引データなどの電子取引データの電子保存が2024年1月から本格義務化され、それまでの宥恕措置は2023年12月で終了しています。保存にあたっては「真実性の確保」(タイムスタンプ、訂正削除履歴、または事務処理規程の運用のいずれか)と「可視性の確保」(取引年月日・取引金額・取引先の3項目で検索できること)が求められます。
さらに国の方向性として、デジタル庁が「Japan Peppol Authority」として標準仕様JP PINTを管理し、Peppol(ペポル)をベースにした電子インボイスの普及が進んでいます。請求書の発行・受領・保存・会計仕訳までを人手を介さずデータ連携する流れに収れんしつつあり、インボイスと電帳法への対応は、会計ソフトや請求書・経費精算システムを軸に一体で進めるのが実務の定石になりつつあります。具体的なツールの選び方は経費精算SaaSやクラウド会計のカテゴリも参考にしてください。
中堅企業がいま着手すべき3つのこと
- 免税仕入先の棚卸し:誰が免税事業者で、年間いくら取引しているかを把握する。とくに1億円上限に近い大口先は要注意。
- 協議のルール化:登録要請・価格改定は「発注側から協議を申し出て双方合意」で進める手順を定める。一方的通告・減額は禁止。
- 区分経理とシステム対応:免税仕入れを控除割合(2026年10月から70%)で区分集計できるよう、会計・経費精算システムの設定を2026年10月の切替に間に合わせる。電帳法の電子保存要件もあわせて点検する。
よくある質問(FAQ)
Q. 2026年10月から控除は50%になり、負担が2.5倍になると聞きました。
A. それは令和8年度税制改正前の情報です。改正後は2026年10月からの2年間は70%控除で、50%になるのは2028年10月からです。2026年10月時点の負担増は現行比で約1.5倍にとどまります。
Q. 2割特例は続きますか。
A. 現行の2割特例は、2026年9月30日までの日が属する課税期間で終了します。なお個人事業者については、2027年分・2028年分の申告で納付税額を3割にできる「3割特例」が新たに設けられました(法人は対象外)。
Q. 取引先に「インボイス登録しないなら値下げ」と伝えてよいですか。
A. 一方的な通告は独占禁止法上問題となるおそれがあります。登録のお願いは可能ですが、価格は協議のうえ双方合意で決めてください。
まとめ
インボイス経過措置は「80%から70%、50%、30%、0%へ」と段階的に縮小し、2割特例は2026年9月で終了します。中堅企業が持ち帰るべき判断軸は3つです。(1) 2026年10月の引き下げは70%で負担増は約1.5倍——過剰反応せず2028年以降を見据える、(2) 取引先対応は「発注側から協議し双方合意」で進め、一方的な減額・通告はしない、(3) 免税仕入先の棚卸しと、会計・経費精算システムの2026年10月切替・電帳法対応を前倒しで進める。数値・期日は改正で変わりやすいため、最終判断の前には、国税庁の公式情報と顧問税理士への確認を挟むことをおすすめします。
※本記事は2026年6月時点の情報に基づいています。税制・法令の数値や期日は今後の改正で変わる可能性があります。出典:国税庁(インボイス制度特設サイト・お問合せの多いご質問 問113・令和8年度税制改正特集)、公正取引委員会(インボイス制度への対応に関するQ&A)、中小企業庁、日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査」、デジタル庁(JP PINT)。




